酒蔵の多様性に着目。日本酒の飲み比べ体験で蔵のファンを生み出す−日本酒サブスク「SAKEPOST」

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日本に1500以上ある酒蔵。そのうち、東京の人が知っているのは5蔵ほどだといわれている。多くの日本酒は全国のみなさんに名前を知られることなく、廃れてしまうのが現状だ。

「ブランディングができる酒蔵は大手だけ。この状況が続くと地方にある小さな蔵は淘汰されてしまう」 

そんな危機感を抱き、日本酒の新規ユーザー獲得に挑んだプロジェクトが日本酒定期便「SAKEPOST」だ。新潟の日本酒を中心に毎月3種類のお酒がポストに届く日本酒のサブスクで、飲んでからQRコードを読み込み、銘柄と酒蔵を知るシステムになっている。

「どこかの蔵だけが儲かるのではなく、どの蔵のお酒も飲んでもらえる仕組みを」。そんな考え方のもと生まれたSAKEPOST。開発にかけた想いを株式会社FARM8代表取締役社長・樺沢敦に聞いた。

株式会社FARM8代表取締役社長・樺沢敦

目次

    1. 日本酒ライト層を増やすことで業界全体の底上げを
    2. 3つの狙いを掛け合わせた「SAKEPOST」
    3. 日本酒好きを増やすため、海外にも進出
    4. 日本酒の多様性を守り続けるために

日本酒ライト層を増やすことで業界全体の底上げを

日本酒業界は縮小傾向に陥っている。昭和48年度には177万KLもの清酒を製造していたにも関わらず、令和2年度にはピーク時の3割以下の41万KL。コロナ禍で飲食店が打撃を受けると、日本酒を卸していた酒蔵も大幅に売上を落とした。

こうした状況が続くと、酒蔵はテレビCMやSNS、酒屋への営業など、個人客をターゲットにブランディングとプロモーションに力を入れる。一方で、小さな酒蔵は名前を売ること自体が難しく、新たな消費者と出会う機会が少ない。樺沢自身も新潟県にある津南醸造の代表を務め、他の酒蔵のブランディングを手伝うなかで、業界内でのパイの奪い合いに限界を感じていた。

「酒蔵のブランディングは日本酒好きをターゲットにするもの。でも、それではパイが限られているので競争が生まれてしまう。そこで目をつけたのが、日本酒を飲んでみたいけどどこから始めたらいいかわからないという層でした。そうした新規ユーザーを獲得して、日本酒を飲む人の母数を伸ばしていくことで酒蔵の大小に関わらず、各蔵の日本酒が残っていくように思えたんです」

3つの狙いを掛け合わせた「SAKEPOST」

sakepost_3種

FARM8は日本酒カクテルの開発や酒粕カフェの運営などを通じて若い人と関わる機会も多い。日本酒に慣れていない世代と話すなかで、「720mlだと飲みきれない」「どんな味か分からないのに1本買うのはハードルが高い」といった話を聞き、飲み比べのニーズを感じるようになった。

しかし、酒蔵単体で飲み比べセットを作るには限界がある。その役目を果たせるのは蔵とユーザーを繋ぐFARM8のようなつなぎ役の人間だけ。「銘柄を出さずに飲み比べをしてもらうことで、小さな蔵も生き残るのではないか」と考え、100mlの日本酒を3種類自宅に届ける「SAKEPOST」を思いついた。

銘柄によるイメージを持たせないように、パッケージには内容の基本情報のみ。日本酒の銘柄情報を印字せず、飲んだ後にQRコードで酒蔵・銘柄情報を読み込んでもらうシステムに。誰でも気軽に頼めるようにポストに届くサイズにして受け取りは不要にした。

さらに以前から考えていた、酒蔵とユーザーの距離を近づける方法もサービスのなかに組み込んだ。

「今までの日本酒は蔵側が情報を発信して飲み手はそれを受け取るだけ。飲んだ人の感想が蔵人まで届いていなかったんです。今はSNSが普及し、簡単に書き込める時代ですが、蔵人はオンライン上に書き込まれた評価までは見れていないのが現状。そこで、私たちが飲み手の感想を届ける役目も果たせればと考えていました。これがうまくいけば、蔵人のモチベーション向上にも、ユーザーが蔵のファンになる可能性だってある。お互いによい波及効果が生まれるはずだと考えたんです」

事実、SAKEPOSTを開始してから「酒蔵へPOST!」という酒蔵へメッセージを送る機能には多くの感想が寄せられている。さらに「美味しかったです!」などのスタンプを導入してから、リアクション数は倍増。FARM8ではひとつずつ印刷して、酒蔵に紙で渡し、蔵人にも飲み手の声を共有するようにしている。

加えて、樺沢にはもうひとつの狙いがあった。日本酒は甘口/辛口、香りなど、さまざまな切り口で表現されることが多く、初心者にはハードルの高いお酒だ。しかも、誰かと外で飲んでいるときはその感想を語らないといけない雰囲気もある。その障壁を取り除ければと組み込んだのが、4択で選ぶアンケート機能だ。

「居酒屋で日本酒を一口飲むと、『あ、フルーティー』とか、『甘口で飲みやすい』とか、何か言わないといけないような気がしてしまうじゃないですか。あれって自分の感想が的外れだとどうしようとか、初心者だとちょっとドキドキしますよね。だけど、SAKEPOSTでQRコードを開くと、みんながアンケート方式で感想を入れておいてくれるから味の答え合わせができる。甘口とはどんな味なのかを学習できる仕組みになっているんです。100mlだから飲み干しやすいし、自分自身が日本酒の違いがわかるという自己肯定感にも繋がる。日本酒初心者が感じる壁を取り除けたらと思って組み込みました」

日本酒好きを増やすため、海外にも進出

日本酒初心者に入口を設けたSAKEPOST。「日本酒ユーザーを増やすことが業界全体の底上げにつながる」と考えているからこそ、2022年9月にはシンガポールと香港への海外進出も果たした。

「以前から海外への展開は考えていたのですが、酒瓶だと送料がどうしても高くなってしまう。でも、パウチ酒にすることで送料が現実的な金額まで抑えられたんです。加えて円安とコロナ禍で日本酒のイメージが変わりつつあった。今がチャンスだと思って動き始めました」

もともと海外での日本酒は日本料理店でごく稀に頼む超高級酒、もしくは、誰も持っていないものを所有するステータスを表すひとつだった。しかし、コロナ禍で飲食店に行かなくなると、家で日本酒を楽しむ人たちが現れた。「体験の位置付けとして少量の日本酒を自宅に届ければ、まだ日本酒に詳しくなくても入りやすいのでは」と考えていた。

実際、海外向けにサービスを始めてみると「酒蔵でPOST!」にメッセージを送ったり、スタンプを送る人も現れるようになり、「日本酒を身近に感じてもらう」という当初の狙いは達成しつつあった。しかし、海外の人にとって日本酒も酒蔵もまだまだ遠い存在。もっと日本酒に親しんでもらうために日本酒の飲み方を紹介する動画やオンラインで一斉に飲む会など、新たなコンテンツを検討中だ。

日本酒の多様性を守り続けるために

SAKEPOSTはサービス開始の2021年11月以来、新潟県内の40蔵以上の酒蔵と提携し、確実に日本酒初心者の層を広げてきた。今後はそのビジネスモデルを活用し、県外の蔵との関係性を模索。より日本酒の関係人口を増やす役割を果たしていきたいと考えている。

「量で金額が決まる日本酒のビジネスモデルは、いつか無理が生じると思っています。なぜなら、工業製品と同じ価値基準で市場が出来上がると、量産を可能にする設備投資できた酒蔵が優位となるから。そういう大量生産・大量消費時代は終わり、代わりに見学や体験など、酒蔵の個性や文化に直接触れ合うことが重要になってくるはずです。私たちが行なっているのは、未知の日本酒と出会う場の創出であり、コミュニケーションの場の提供。飲み手と造り手、双方が楽しめる場を生み出すことこそが私たちの役割だと思っています」

平成22年度には1736蔵あった清酒の酒蔵も、令和2年度には1550蔵へ。全国的に酒蔵の数は減少し続けているのが現実だ。それでも、国内では他の酒類製造業に比べ、圧倒的な蔵数を誇る。しかも、日本酒は画一化された味ではなく、それぞれの蔵が工夫をこらして多様な味を守り続けているのだ。その多様性を守るため、FARM8はこれからも家庭に日本酒の飲み比べ体験を届け続けていく。

どこかの蔵だけが生き残るのではなく、どの蔵も100年先に続く未来を目指して。

<参考>

国税庁 酒レポート 令和4年3月

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